【神戸新聞掲載記事 10/24夕刊】
奏法追求 世界一の音色 フィンガースタイルギター国際大会で優勝
尼崎のMOMOさん、日本人女性で初「最高に幸せ」 ジャズ界の巨匠も祝福
プロギタリストのMOMO(本名・木村モモ)さん(37)=兵庫県尼崎市=が、9月に米カンザス州・ウィンフィールドで開かれたアコースティックギターの「インターナショナル・フィンガースタイル・ギターチャンピオンシップ」で優勝した。半世紀以上の歴史を持つ大会で、日本人では2人目、さらに女性では初という。コロナ禍を経て6度目の挑戦でつかんだ栄誉に、MOMOさんは「最高に幸せ。これからも、多くの人に音楽で癒やしや活力を届けたい」と喜ぶ。(広畑千春)
弦を指でつま弾き、たたく。手のひらを使ってボディーをたたく。まるで小さなオーケストラのように、ギターだけで旋律と和音、パーカッションなど全ての音を奏でる。荒野で火を囲み踊る米西部の先住民のように、月明かりの下で寄せて返すさざ波のように。「表現が豊かで深く、ゴールがない」とフィンガースタイルの魅力を語る。
神戸市垂水区で生まれ音楽一家で育った。コンサートで生演奏を聴いたのがきっかけで、12歳でギターを始めると「次々に音が頭の中にあふれてきた」。地域のイベントで父のピアノに合わせ弾き語りを披露すると、お年寄りらが「あんたの歌が好きや」とほほ笑んでくれた。誰かのために歌う喜びに夢中になった。食事の時も眠る時もギターを離さず、浮かんだ曲を書きとめては神戸・三宮のストリートライブで披露した。
プロを目指して大阪音楽大学短期大学部への専攻科へ進んだ。米国の伝説的ギタリスト、マイケル・ヘッジスの演奏に衝撃を受け、フィンガースタイルの世界へ。無心で練習を重ね、卒業後の2009年にデビューした。ライブ活動を続けながら米ニューヨークでも修行し、15年からは日本代表として同大会に挑戦してきた。
そこにコロナ禍が襲った。音楽でみんなを元気づけたいのに、ライブ自体がタブー視され、「なんのために音楽があるのか」と悩んだ。それでも曲を作り続け、交流サイト(SNS)を通じて毎週オンラインライブを重ねると、フォロワーから「元気になった」「癒やされた」と声が届いた。
6回目の挑戦となった今大会。東日本大震災の被災地に思いを寄せた「PRAY(祈り)」など、予選・本選とも全てオリジナル曲で臨み、各国から集まった約50人の頂点に立った。その瞬間、会場はスタンディングオベーションに包まれ、ジャズの巨匠ハービー・ハンコック氏からもお祝いのメッセージが届いたといる。
「響け!届け!という思いで、全力で演奏した」とMOMOさん。「諦めなくてよかった。魂を込めれば世界中の人に伝わるんだ―と証明できたことが、何よりうれしい」と音楽の力をかみしめた。
11月5日には神戸で優勝報告ライブを開く(すでに満席)ほか、MOMOさんの公式ホームぺージでは、大会の時の演奏の動画も視聴できる。
●フィンガースタイルギター
アコースティックギターやクラッシックギターで、ピックを使わずに、指先で爪ではじく奏法。フィンガー・ピッキングとも呼ばれる。左手指で弦をたたいたり、指を素早く小刻みに動かしたりするなど独特の技術も多い。日本では、押尾コータローさんらがこの分野で活躍する。